8mmの音声方式として、
フィルムの磁気帯に録音再生する「磁気式」や既製の映画ソフトで使われている再生専用「光学式」の二つはよく見かけます。これらはどちらも、フィルム上に映像と音声が記録されているもの。
それと別の発想で、映像はフィルム、音声はカセットテープやオープンリールなどが担当して、何かのメカや信号を使って映写機と音声機器の間を取り持って同調=シンクロさせると言う方法があります。
考え方は、現在の劇場用のDTSシステムの始祖に当たるようなもの。
その中に、電気のパルス信号で音声機器と映写機を同調コントロールするパルス同調システムと言うのがございます。
日本のメーカーだけでも富士、エルモ、キヤノン、コパル方式と4種類がございます。一部相互乗り入れが出来るのですが、基本的には全方式がバラバラです。その中で有名な富士写真フイルムのシステム「フジカパルスシンクシステム」について、オオノ隊員さんにご紹介頂きました。
エルモの数年後に登場したのがフジカパルシンクシステムで、これはなかなか優れたシステムでした。
エルモと異なり、複数の装置を組み合わせ、接続も複雑になっているのですが、そのかわり、いろいろな応用が利くようになっています。
フジカパルスシンクシステムの映写機
フジカスコープMX70が初めてのフジカパルスシンクシステムに対応した映写機でした。後に普及型としてMX50が、磁気録音映写機としてフジカスコープサウンドSH30が発売になりました。
次の同調用アクセサリーを利用してパルス同調を行います。
文字通り、パルスシンクロをコントロールする装置です。
映写機とはコード1本で接続します。MX70の場合はボディ底部に取り付けシューがあり、直接取り付けることができ、映写機と一体化しますが、他のパルス映写機にはシューがないので、一体化はできません。
このコントローラーを用いて、以下のことが可能です。
1.マルチトラックレコーダーを利用して同調映写が可能(1つのトラックをパルストラックに使用)
2.フジカパルスシンクコーダー(専用の小型カセットテープレコーダー)を接続して、同調映写が可能(音声はモノラル)
3.パルスシンクボックスとオープンテープレコーダーを利用して同調映写が可能(4トラック2チャンネルステレオテープレコーダーを使用すればステレオでの録音再生が可能)
1.マルチトラックレコーダーとの同調
このコントローラーにはパルス入出力のピンジャックが付いており、マルチトラックレコーダーの1つのトラックに直接映写機発信パルスを録音することが可能です。
つまり、映写機を走行させ、走行に伴って発信するパルスをレコーダーに録音し、今度はレコーダーに録音されたパルスを再生して、そのパルスによって映写機の速度をコントロールします。
フジカパルスはエルモやキヤノンと異なり、変調パルスを使用しているので、雑音の影響を受けにくくなっています。従って、このパルス入力用のピンジャックに、エルモやキヤノンのパルスを入力しても、映写機は作動しません。
しかし、エルモやキヤノン用には、別に単純パルス用のミニジャックが設けられており、これを利用することによって、同調が可能です。
また、パルスシンクコントローラーには同調の状況を示す、インジケーターが設けられています。
同調しているときは、指針が中央で静止していますが、レコーダーの速度が速くなるに従って指針が右に、遅くなると左に移動します。
指針が、最右端、あるいは最左端まで到達した時点で、映像と音声が1こまずれたことになるのです。
そして、インジケーターの横には、SLOW、FASTボタンが設けられており、同調がずれたときに簡単に修正することができ、修正量もインジケーターのふれで確認できるのです。
しかも、このインジケーターと修正ボタンは、内部から照明されており、映写時にも確認しやすくなっているという心配りです。
なお、このインジケーターと修正ボタンは、エルモGS1200にも内蔵されました。
GS1200の場合はインジケーターに近くにパイロットランプが付いていて照明しますが、内部から照明されているフジカの方が一歩上を行っています。
2.パルスシンクコーダーとの同調
専用カセットテープレコーダー、フジカパルスシンクコーダーを接続できます。
パルスシンクコーダーは1/2トラックに音声を、1/4トラックにパルスを録音するように作られています。音声トラックとパルストラックの間には1/4トラック分の空白があり、クロストークを防いでいます。(エルモの専用カセットテレコも同じ)
同調映写の場合は、パルスシンクコーダーのDINジャックとパルスシンクコントローラーのDIN入力ジャックとをコードで接続します。
映写機から発生するパルスを録音する場合は、パルスシンクコントローラーのDIN出力ジャックと接続します。
パルスシンクコーダーは単3電池5本で作動しますが、パルスシンクコントローラーにはDC7.5V出力ジャックが設けられており、このジャックから電源の供給を受けることができます。
つまり、パルスシンクコントローラーはパルスシンクコーダー用のACアダプターにもなるわけです。この辺りはなかなかよく考えられていると思います。
3.パルスシンクボックスとオープンテープレコーダーを利用して同調映写
パルスシンクコーダーの代わりに、パルスシンクボックスを接続することができ、オープンテープレコーダーとの同調が可能となります。
パルスシンクボックスは、4トラックオープンテープレコーダーの第4トラックに相当する部分にパルスを録音再生することができる、録音ヘッドと、テープの走行によって回転し、1回転で18パルスを発生するドラムの両方を備えています。
つまり、エルモの同調機器であるSA-1とD-1の両方の機能を備えています。
したがって、
モノラルオープンテープレコーダーを利用したモノラル音声同調、
4トラック2チャンネルオープンテープレコーダーを利用してステレオ音声同調、
4トラック4チャンネルオープンテープレコーダーを利用して3チャンネル音声同調(第4トラックをパルストラックとして利用する場合)、
4チャンネル音声同調(パルスを録音せず、ドラムの回転でパルスを発生させる場合)
が可能となります。
録音するパルスは映写機を走行させて発生させる、映写機発信パルスのほか、ドラムの回転によるパルス、すなわち、オープンテープの一定の走行量に対応するパルスを録音することも可能で、これはエルモでは通常できない利点です。(コードを自作すれば可能)
また、このパルスシンクボックスはDINプラグのほか、ミニジャックも備えており、パルスシンクコントローラーの単純パルス用のミニジャックと接続することにより、エルモやキヤノンのパルスでも同調が可能となります。
フジカパルスシンクシステムならではの利点
以上述べたように、フジカパルスシンクシステムは複数の機器を組み合わせるようになっており、さらに作業毎にコードを接続し直す必要があるため、エルモのパルスシステムに比べて、操作が複雑になっています。
しかしながら、エルモが融通の利かないシステム構成になってしまったのに対し、フジカパルスシンクシステムは次に述べるように、非常に応用範囲が広いシステムとして完成されています。
1.フジカパルスシンクコーダーで録音されたパルスをマルチトラックレコーダー
や、オープンテープレコーダーに録音することが可能です。これによって、同時録音された音声をカセットテープから移すことができ、音声編集に利用できます。
パルスシンクコーダーのDINジャックと、パルスシンクコントローラーのDIN入力ジャックとをつなぐと、ピン出力ジャックと、DIN出力ジャックからパルスを出力することができ、マルチトラックレコーダーの任意のトラックや、パルスシンクボックスを併用してオープンテープレコーダーの第4トラックにパルスを録音することができます。
エルモのシステムでこれをやろうとすると、パルスヘッドの他にパルスコードユニットという、このため専用のアクセサリーが別に必要となります。
エルモは結線の容易さを重視していたため、こういったリレコーディング関係が不自由になっています。
2.エルモやキヤノンの単純パルスをフジカパルスシンクシステム用の変調パルス に変換することが可能です。
シンクコントローラーのミニジャックにこれらの単純パルスを入力して映写機を作動させると、DIN出力ジャックと、ピン出力ジャックからフジカパルスシンクシステムの変調パルスが出力されますので、パルスの変換が可能です。
3.パルスシンクコントローラーをじゅずつなぎにして、複数の映写機を完全に同調走行させることが可能です。
パルスシンクコントローラーの出力ジャックを2台目のシンクコントローラーの入力ジャックにつなぎ、その出力ジャックをまた次の入力ジャックにつなぐと言うことを繰り返すことにより、複数の映写機を完全同調走行させることができるのです。
これはフジカパルスシンクシステムだけの特長です。
エルモはD-1かPG-1を利用した場合、2台の映写機を作動できますが、これではいかにも中途半端です。しかも3台以上の台数の映写機を作動させるのは非常に困難です。
以上述べたように、フジカパルスシンクシステムはエルモ、キヤノンと比べて最も完成されたシステムだと断言できます。
MX70とMX50の場合、24こま毎秒まで同調しますが、同調範囲ぎりぎりのようで、もうちょっと余裕が欲しかったところです。
SH30の場合は、18こま前後、20こま以上までは同調するようですが24こま毎秒では同調しません。
しかし、手動によって24こまでも同調させることは可能です。
映写機をパルスモードにせずに走行させ、シンクコントローラーにパルスを入力すると、コントローラーの同調インジケーターが同調状況を示します。
つまり、映写機の速度に比べて、音声が速い場合は、インジケーターの針が右側に、音声が遅い場合は針が左側にずれて行きます。
これを見ながら、映写機の速度調整ノブ、あるいはレコーダーのピッチコントロールを調整して常にインジケーターの針が中央にあるように調整すれば画音同調が可能です。
これを利用すれば、24こま毎秒で作動するサウンドカメラが1機種もないシングル-8システムでも、24こま毎秒で同時録音することが可能です。
フジカZ800、あるいはZC1000でアフレコフィルムを使用してパルスシンクシステムで24こま毎秒で同時録音します。
フジカスコープサウンドSH30を利用してパルスシンクコントローラーのインジケーターの針の振れを見ながら、映写機のスピードノブを調整して同調映写しながらサウンドトラックに録音すれば良いのです。
このZ800とパルスシンクシステムを発売した頃がシングル8システムの絶頂期だといえるでしょう。(すでにZC1000も発表されていた)
しかし、その後、シングル8システムは没落の一途をたどり、評価に値する機種は絶無となり、パルスシンクシステムも真っ先に廃止されてしまいます。
(SD20やSD25映写機はパルス同調が可能となっていますが、今まで述べたパルスシンクシステムではなく、すでに作られたパルステープで同調映写が可能というだけのものであって、新たにパルステープは作成できず、同調インジケーターもありません。)
自社の8ミリコンテストの作品も「パルスシンクシステムのものは応募不可、マグネ録音に限る」との徹底ぶりには驚きます。
勿論、その後もエルモやキヤノンは自社のコンテストにはパルスシステムのものも認めていました。
8ミリ発展普及委員会会長のオオノ隊員
(C)2006 Agent Ono All Rights Reserved.
コメント